Documentary

 
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「十日町市には“仙人”と呼はれる人が何人かいる」。

それまで4年ほど、市内の別集落で取材を続けていた中でそのような噂を聞き、その言葉から勝手にイメージした濃い生き様に触れられると好奇心を持ち、2019年の春先にその人物のもとを訪ねた。

 

日本有数の豪雪地帯であり、四季の色濃さを肌で感じられる新潟県十日町市。市街地から40分ほど車を走らせたところにある旧松之山町黒倉集落で、嶋村彰氏はホーリーバジル(日本語名:神目箒、ヒンドゥー語名:トゥルシー)というハーブのお茶農家を営んでいる。

 

“スローライフ”等の言葉の印象から賛美されがちな農村生活は、決して楽なことばかりではない。

シーズンが始まれば、ほぼ休みの無い農作業。オフシーズンは、スキー場など別の仕事で生計を立てることもある。都市部で形成された非干渉の精神に対する、田舎ならではの煩わしさを感じる人もいるかもしれない。

 

それでも、厳しい冬を越えて訪れる春に、苦労を重ねて迎える秋の収穫に、たくさんの人や自然との関わりに喜びを感じられる。

「辛さがあるからこそ、幸せをより幸せに感じられる」という嶋村氏の言葉。タイトルには、そのような暮らしの中にある“陰と陽”の思いを込めた。

 

都市で暮らす側から見ると、俗世間から離れたような少数派の存在に対し、その風貌も相まってあさはかに“仙人”という言葉を当てはめてしまうのかもしれないが、本人にそのつもりは全くない。

対極にいる側からは“特別”なものとして位置付けられているその暮らしは、本来であれば人の営みの原点でもある。

 

東日本大震災を経験して、“人と人の繋がり”の大切さを唱える風潮が高まり、昨今のコロナ禍で、人だけではない、他の生物や自然との繋がりをより考える新しいフェーズが訪れているようにも思える。撮ることで、この地球で生きていく上での未来の可能性を見出していきたい。

 
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伊豆諸島に浮かぶ利島。人口300人ほど、面積4.12㎢の小さな島。島のおよそ8割は椿林で覆われ、そこから採れる椿油は日本一の生産量を誇り、200年以上続く島の主産業の一つとなっている。

表題の環(わ)は、循環や、同じ読みの輪・和といった複合的なイメージ。自然や人の移り変わり、その他様々な要素が巡り巡って形成されていく地域の様子に魅了されながら、2015年夏より継続して記録をしている。

「結(ゆい)」は、古来の言葉で、集落や自治単位における助け合いのこと。

撮影地である新潟県十日町市は、米どころでもあり日本有数の豪雪地帯でもある。その土地の風土に寄り添った生活は日本古来の原風景が感じられ、そこに魅力を感じた都市部からの移住者も多い。また、近年、関係人口というワードがあるように、移住定住でなくとも定期的に訪れることでその地域と関わっていく形も増えている。

このような、農村と都市の結びつきに可能性を感じ、現代版の「結」と捉え、撮影を続けている。

静岡県熱海市網代漁港。ここに、定置網漁業の伝統を継承し、水産魚を営む網代漁業株式会社がある。

夜深い午前2時に港を出発。年長者が年少者に技術を伝え、2隻の船で魚を追い込んでいく姿は、まさに狩りのよう。獲物を捕らえるハンターとしての勇ましい表情と、時折見せる人間臭い笑顔に魅せられる。